歯を抜かない非抜歯の矯正
矯正治療の目的
- 顔観の調和(心理的障害の除去)と、口腔機能(咀嚼・発音・嚥下)の改善
- 治療後の咬合の安定、健康的な口腔組織(歯周病・う蝕の抑制、顎関節症の抑制、外傷の抑制など)
抜歯・非抜歯の判断
人間には本来、智歯も含め32本の歯牙が存在します。
しかし、現代人の食生活は軟食化し歯牙が摩耗することが少なくなってきました。また、食事もよく噛まなくなってきているため、顎骨の成長発育は古代人と比較すると矮小化しており、智歯は埋もれ、叢生が発生しやすくなってきてます。
矯正治療において永久歯の抜歯を行うか否かについては、かなり昔から論争されてきていますが、その目的を達成させるために抜歯をしなければならない症例も多いのが現実です。
また、よく抜歯をされる歯牙として、上下小臼歯の4本が選択されることが多いですが、その際に注意しなければならないことは、下顎の智歯が正常に萌出することは少なく、結果として8本の歯牙を失うことになるケースが多々にあるということです。
これは智歯と小臼歯では、圧倒的に智歯のほうが大きいからです。
従って抜歯の時期と部位、第2期治療の開始時期を考えなければなりません。
28本の歯牙をを残すことが理想ですが、それぞれの症例の特徴と本人が何を求めているのかよく考慮し、最終的に非抜歯あるいは抜歯部位の決定をしていかなければなりません。
8020運動(厚生労働省と日本歯科医師会が推進している、80歳になっても20本以上の歯を残そうという運動)が叫はれて久しいですが、若いときだけでなく一生を視野にいれた治療計画を立てる必要があります。
人生は長いので、矯正治療後も持続して正しく咬める咬合を作っていくことが大切です。
小臼歯と親知らず
人間の歯列には無駄な歯は1本もありません。上下2本ずつ、計4本の前歯の隣に犬歯があり、その隣に小臼歯2本、大臼歯と並んでいます。口腔容積や口唇圧、舌などのさまざまなバランスを保ちながら、もっとも自然な位置に歯が落ち着いているのです。28本の歯牙を残そうとした時、どこの歯牙を抜歯した方が有利か考える必要があります。
勿論、抜かずにできれば一番良いのですが、叢生があるからといって安易に小臼歯を4本抜歯するのでなく、上下顎の状態・歯牙のサイズ・本人の審美的要求度によって抜歯部位を考える必要があります。
例えば、上顎の左右4番と下顎の左右8番あるいは上顎の左右7番と下顎の左右8番の抜歯により28本残すことが可能な症例も多々あります。中には上顎の左右4番、7番と下顎の左右4番、8番の抜歯が必要な症例もありますが、なるべく犠牲の少ない抜歯部位本数を念頭に治療をすすめていきます。
小児矯正:成長段階に応じた的確な治療
当院が声を大にして申し上げたいのは、装置を装着することイコール矯正治療ではないということです。現在では、小学校の早いうちから大人同様のブラケットという矯正装置をはめて矯正をしているお子さんの姿が多く見られます。しかし当院で行っている矯正治療では、成長に応じてポイントを押さえた処置を施すことで、お子さんの負担をできるだけ軽減しながら最良の結果へと導いています。例えば、関節への影響や見た目の問題、噛み合わせの悪化を招くあごの左右のずれや、受け口や出っ歯などを引き起こすあごの前後のずれについては、もっとも大きな効果を期待できる小学生から中学生の間にコントロールすることで後の本格的な矯正治療の下準備をしておきます。そしてあごの発達が終わりに近づく高校生の頃に、お子さんご本人の意思を確認した上で、全体の歯の並びを綺麗に整えるブラケットを使用した治療を進めていくのです。目先のことだけではなく、その方の人生そのものを視野に入れて、長い目で将来を考えた確実な治療を行うことを心がけています。
成人矯正
矯正治療に年齢制限はなく(成長発育がないので症例によっては制限があり)、何歳から始めても遅すぎるということはありません。かつては矯正治療といえば「小児の治療」というイメージがありましたが、現在多くの40代や50代、それ以上のお年の方が当院に通われ、治療を行っています。「子供の頃には矯正するチャンスがなかった」「ずっと歯並びにコンプレックスを抱いていた」という方が、大人になってから矯正治療に取り組み、綺麗な歯並びを獲得して喜ばれている声をたくさん伺います。小児矯正と違って親御さんなど他者の意向は入らず、自分だけの意思で決めて治療を行うため、本人の意識が高く治療効果が確実に出るのも成人矯正の特徴です。歯は何歳からでも動きますので、どの年齢で矯正治療を始めても良い噛み合わせ、綺麗な歯並びを得ることができます。ただし、歯周病がある方の場合は最初に歯周病の治療を済ませておく必要があります。歯を支えている骨が歯周病により痩せている状態で矯正治療を行うと、さらに骨が減少する可能性があるため、炎症を抑えて医師によって充分に管理された状態になってから矯正治療へと進んでいきます。
保険診療における矯正歯科
①別に厚生労働大臣が定める疾患に起因した咬合異常
厚生労働大臣が定める疾患
- 唇顎口蓋裂
- Down症候群
- Treacher Collins症候群
- Tumer症候群
- 鎖骨頭蓋異骨症
- Russei-Silver症候群
- Crouzon症候群
- 尖頭合指症
- Pierre Robin症候群
- Bechwith-Wiedemann症候群
- 6歯以上の先天性部分無歯症
その他全部で59の疾患
②3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常
(1歯は埋伏歯開窓術を必要とするものに限る)
③顎変形症(顎の離断等の手術を必要とするものに限る)
別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長に届け出た保険医療機関において行う顎変形症の手術前後における療養を対象とする。
①、③については歯科矯正診断料または顎口腔機能診断料に基づく診断を行った患者に限る。