成長に合わせた的確な矯正治療
子供の特性は、①成長発育があること②歯牙の交換(乳歯から永久歯)が順次行われていることがあるが、この時期は成長発育のコントロールと不正咬合の予防・抑制に主眼をおくべきです。
一人の患者さまの成長過程を長い期間で診るため、顎のずれの修正や歯列の拡大・習癖の改善など、ポイントを押さえた治療、極力負担を抑えた治療を行う必要があります。
小学校の歯科検診に行くと必ず矯正装置をはめている子供が何人か見かけられます。特に小学生の低学年から全歯牙(乳歯含む)にブランケットを装着しているのが目に付きます。
何のために今ブラケットをつけているのか治療の意図が読めないケースもしばし見られます。
小学生はただでさえ歯磨きがしっかり出来いないため、それが虫歯や歯肉炎を促進することにも繋がりかねません。
咬合の確率のために最終的な治療開始時期は顎の成長発育がほぼ終了に近づく高校生のころにお子さまご本人の意思を確認したうえで、全体の歯並びをきれいに整えるために全歯牙のブラケットを使用した治療を進めていくことが安全です。
患者さまとのコミュニケーションを大切にして、長期的な視野に立った治療計画をご提供しています。
後悔しない治療のために
お子さまの矯正はほとんどのケースではご両親の意向で来院されますが、ご本人の気持ちも大切にしながら、一生を考えた悔いの残らない治療を行うよう心がけています。当院では過去に治療させていただいた例では歯並びが悪いことがコンプレックスとなって、常に気分が暗く落ち込みがちで、全く人と話せなっかた当時小学生のお子さまが、矯正治療を受けて綺麗な歯並びを手に入れたことで見違えるように明るくなったケースがありました。
そのような結果を願いながら日々治療に取り組んでおりますが、やはり親御さんだけが治療に積極的で、お子さま本人は気乗りしていない場合も見られます。
確かにあごのずれの修正など、早い時期に行った方が効果が高い措置もありますが、まずはご本人が治療の内容と必要性を理解して、心から納得することが大切です。治療に際しては、矯正治療とはどういうものか、どのような治療をどの時期に行えばもっとも効果的なのかを丁寧にご説明するように心がけています。
歯並びを悪くする不良習癖
筋活動の有害な習慣的パターンは、しばしば骨成長の異常や不全・歯の位置異常・不正な呼吸習癖・発音障害・顔面筋の不均衡および心理的な問題に関連している。
A.口腔習癖―口に関する癖を口腔習癖という口腔の形態や機能に害を及ぼす。
弄指癖(Finger sucking)・吸指癖(指しゃぶり)
一般に見られるものは拇指吸引(Thumb sucking)
時間(頻度)と期間とその強さ、指の位置などが不正咬合の成立と大きく関係する。
指しゃぶりの程度によっては、上顎前突(出っ歯)や開咬(上下の前歯が咬み合わず開いたままになる状態)あるいは上顎の狭窄(頬壁の収縮が口の中の陰圧を作り出し、その結果上顎歯列弓の狭窄をきたす)のために機能的な交叉咬合を成立させることもある。
又、異常嚥下癖(上顎切歯が唇側に傾斜し開咬が発生したとき、前歯部を閉鎖するために嚥下中、舌を前方へ押し出す必要がある)を二次的におこすこともある。
乳児期の指しゃぶりは生理的な現象である。
3歳くらいまでに自然に中止することが多く、それ以後も残るようであれば、あまりうるさく叱るのではなく、自然観察をし子供の全体を見る。
問題があるときは、子供の接し方の工夫・なぜ指をしゃぶるのか原因の探究(家庭環境・親子関係・欲求不満など)し、対象となる子供の年齢や状況に応じた個別指導をする。5歳を過ぎても頻度が多ければ対策を考じなければならない。
指しゃぶりの影響
・心理面への影響(罪悪感・劣等感)
・発音への影響(サ・タ・ナ行の不明瞭な発音)
・歯列・顎骨・咬合への影響
1:上顎前歯の唇側傾斜・空隙
2:下顎前歯の舌側傾斜
3:下顎の後退位
4:上顎歯列弓の狭窄・臼歯部の交叉咬合
5:口蓋の変形(高口蓋)
6:歯性の開咬(切歯の正常な萌出阻害と臼歯の過萌出とが組み合わされ)骨格性の開咬
7:上顎前突
弄舌癖(Tongue habit)
機能上必要な運動以外のある特定の場所とか方向とかへ習慣的に運動させること。
下唇が上顎前歯の裏側に繰り返し入り込むとき、上顎前歯の唇側転位し、しばしば開咬になったり下顎前歯の舌側転位をおこす。
(a) 咬舌癖(Tongue biting)―その部の限局された開咬などの原因となる
(b) 舌前突癖(Tongue thrusting)―舌姿勢位(安静位)の異常。生理的に4歳までは異常とはいえない。舌突出と顔面の筋肉の異常収縮を伴う嚥下を長期間やっていると開咬になることもある。不正咬合形成の基本要因の一つであるが、骨格的開咬の症例での二次的なあるいは適応性の因子であることもある。
大部分異常嚥下癖(Abnormal swallowing)に随伴するもの、しばしば発音障害が伴う。上顎前突・開咬を引き起こしやすい。
固有口腔から前庭に向かって舌が突出し、上下歯牙は接触せず、口の周囲の筋肉特に口輪筋やオトガイ筋が強く収縮。
[原因]
1:幼児期からの吸指癖からの移行(開咬により舌癖を誘引)
2:舌小帯の付着異常
3:口呼吸を伴う扁桃肥大・アデノイド・鼻疾患・アレルギー性鼻炎
4:前歯の喪失
5:不適切な授乳法―乳児期の授乳法のうち人口栄養に問題がある、あるいは離乳完了期を迎えても断乳できない場合、吸啜時の舌の運動パターン(乳児型嚥下)が遅くまで残り舌癖の原因となる。逆に正常な嚥下ができる前に早く断乳してもダメ(9ヶ月頃まで遅らせる)
6:大舌症(低舌位・前方位と区別)
7:遺伝的な要因(骨形態・筋肉の問題)
成長発達のステージに合わせた舌癖の指導
乳歯列期― 1:噛む練習(捕食・咀嚼・口を閉じて嚥下)
2:口腔周囲筋を強化するボタンプル
3:舌位を覚える練習(スポット ポッピング)
4:指しゃぶりなどの習癖の除去
混合歯列期― 積極的に習癖の除去(ハビットブレーカー・上顎拡大プレート・マウスガード・部分的な矯正装置)やM.F.Tトレーニングを行う(動機付けの大切さと工夫)
永久歯列期― M.F.Tと矯正治療を併用。形態と機能の改善により、口腔周囲筋のバランスをはかる。
(c)低位舌(Low tongue)舌姿勢位(安静位)の異常
下顎前突に随伴してみられ、下顎歯列内に舌が安静位で低く充満し、しばしば下顎前突の治療に対して抵抗を示すことがある。
弄唇癖(Lip habit)
(a) 咬唇癖(Lip biting)
・下唇を咬む癖――上顎前歯の前突や下顎歯列弓の後退に随伴することがあり一種の悪習慣として不正咬合を助長する。
・上唇を咬む癖――反対咬合にみられる。
(b) 吸唇癖(Lip sucking)
下唇の吸唇癖――著しい下顎後退に随伴することが多い。オトガイ筋の強い収縮を伴うことが常で、矯正治療に対して強く抵抗を示すことが多い。
口呼吸
鼻咽腔疾患(慢性の鼻閉塞・鼻中隔湾曲・鼻甲介の肥大・鼻粘膜の腫脹・口蓋扁桃肥大・咽頭扁桃肥大(アデノイド)など)で、気道が狭められ口呼吸をする場合は、悪習慣とは言い難いが、疾患などの原因を除去しても、なお口呼吸を営む場合は悪習慣という。
口呼吸をする癖がついてしまうと唇の筋力が弱まり、舌の位置が狂ったり口腔内の筋肉のバランスが崩れたりします。
その結果、開咬・上顎前突を引き起こす場合があります。
口唇の弛緩などによる審美性の低下・前歯の前突・歯肉やノドの炎症
[対策]表情筋のトレーニング(口輪筋の鍛錬)
呼吸は顎骨と舌(そして頭自体もある程度)の姿勢位を決める基本的な因子であるため、口呼吸が原因となって頭位や顎・舌の姿勢位が変化し、結果的に咬合の平衡状態を変化させ顎骨の発育と歯の位置に影響を及ぼすと考えるのはもっともである。
人は本来鼻呼吸、運動中は口呼吸することになる。
口呼吸―口腔気道を確保しておく必要がある。
これを行うには3つの姿勢位の変化が必要。
下顎を下げること、舌を前下方へ位置させること、そして頭を後方へ傾斜させること。
口呼吸は平衡状態に影響を及ぼすという意味で不正咬合の原因の一つと考えられている。
口呼吸を伴う不正咬合として、骨格性開咬(ロングフェイス症候群)
この型の不正咬合では、成長中に下顎骨の後下方への回転がみられる。
これに加えて臼歯の過萌出、上顎骨の狭窄傾向、オーバージェットの過大そして前歯部開咬が認められる(アデノイド顔貌)
扁咀嚼
片方だけの咬みぐせ。顎が咬んでいる方へずれる。
咀嚼トレーニング――正しい筋感覚の獲得と咀嚼のエングラムの確立(口を閉じて咬む、バランスよく偏咀嚼しないリズミカルに→口唇力向上・咬合育成効果)
咀嚼能力の向上、機能的な咀嚼運動の獲得(ガムトレーニングで得た機能的な筋感覚を実際の食事へ導入できるよう併行して訓練この時、強く噛ませない。20分以上噛ませない)
B.態癖―顎口腔系に非機能的な力を継続的にかけ、さまざまな悪影響を及ぼす習癖。
顔面の偏位・下顎の位置および成長・歯列弓のねじれ・歯牙の植立方向などに悪影響→咬合の不安定につながる。
頬づえ
顔面の非対称。手のひらを顎に置いて頭を支えるという動作です。
下顎の変形だけでなく、関節にも影響が出てくることがあり、顔面の歪みにも繋がります。
睡眠態癖(寝ぐせ)
睡眠時の頭部の位置によって下顎骨の位置が変化。
下顎近心咬合・遠心咬合。
重力が働くため特に影響力が大きい癖です。
いつも同じ方向を向いた寝癖をつけない。うつ伏寝をしない。
顎の変形に繋がる場合があります。